「過去にね、やっていた仕事がいいのよ」

女主人で占い師の彼女は、そう私に言ったのです。

「過去にやっていた仕事って?」

そう私はもう一度尋ねました。

すると彼女はこう言ったのです。

「あなたね、文章を書くの、得意でしょ?」

 

そう言われて私はピンと来ませんでした。

「得意ってことないです」

「文章書くのに困ったことないでしょ?」

そう言うのです。

 

確かに私は昔から文章を書くのに困ったことはありません。

学校の科目も勉強しなくても得意だったのは、国語と音楽で、作文も読書感想文も困ったという経験はありませんでした。

でもそれは得意というよりは、誰でも出来ることだと思っていました。

誰でも文章を書くことは出来ます。

ですから、それが特別なことのように感じたことは一度もありませんでした。

誰でも私と同じように手紙も書けるし、作文も書ける。

書くことは特別な能力でもなんでもないと思っていました。

 

 

「確かに作文とか手紙とか、文章を書くのに困ったことはないですけど」と言うと、

それを聞いていた友人が、

「えー!松島さん、文章書くのに困ったことないの?」

「うん」

「えー、ありえへんわ。私なんかメッチャ苦労するのに」

 

すると女主人は、

「ほらね、誰でも文章書くのは苦労するのよ。でもあなたは全然苦労したことないでしょ。なんでもすぐに書けるでしょ。それは過去に文章を書いてきたからよ」

と言うのです。

そして、占いの紙を指差しながら、

「ほら、ここに文筆家の卵って言うのがあるでしょ。だからあなたは文章を書くのが得意なはずなのよ。文章を書く仕事をすると良いわ」

そう言って、彼女は立ち上がって行ってしまったのです。

 

「文章を書く仕事って何?」

私は友人に尋ねました。

「さぁ、なんやろ。なんかあれば良いのにね、宛名書きでもする?」

「せやねー」

 

その時の私は、

「文章を書く仕事」と言われてもサッパリわかりませんでした。